昨日今日分のノベルバーです。混ぜやすかったので。
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雲のない薄い色の空を乾いた風が吹き渡り、すぐ近くに冬がいると告げている。
湿潤な東国ハンガシアだが、国境を頂くこの山ひとつ越えればがらりと気候が変わる。もっとも、「山ひとつ」というのは何度もこの道を往復した身ゆえにできる表現で、一般的に人はこれを「山脈」と呼ぶ。
「ゆっくり景色でも見られれば良かったんだがなあ」
一歩一歩、吐く息を噛みしめながら、山道を登る。汗ばむ顔や胸を撫でる風はひんやりと冷たいが控えめで、体からあふれる熱気を奪い去るには至らない。
「すまんな、リェレン殿! 少し休ませてやりたいが」
肩越しにかけた声が、山々にこだまする。後ろの人物はフードをかぶったまま、言葉少なに応じた。
「慣れている」
「そうか。なら怖いものなしだ」
この旅の果ての果てには、命を脅(おびや)かすほどの「怖いもの」が待ち構えているはずだ。だが恐れはない。それは楽観でも無謀でもなく、澄み渡った精神で全ての物事に対峙する、という覚悟だ。脅威に立ち向かい、真実を見極めるために。
見慣れた頂(いただき)が眼前に現れた。もうじき、アバリティア国内に入る。
2021年11月12日
#ノベルバー 11日「からりと」・12日「坂道」
posted by 神名リュウト(KaL) at 15:48| 突発SS・文章系タグ
2021年11月10日
#ノベルバー 10日「水中花」
「ノベルバー」本日の参加分です。
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「紙…なのですか」
色のついた瓶の中には、白い花が咲いている。瓶を傾ければ、中に満ちた水に従ってゆらゆらと花びらが揺れ動く。
紙で出来た「偽物」、とは思えなかった。確かに本物の花ではなかろうが、だからこそ美しい。
「欲しいならあげるわよ」
「いっ…、いえ、そのような!」
「いいのよ別に。欲しい人間の元にある方が物は価値があるわ」
「―――、」
ジェシナの目線が瓶から離れ、背を向けて髪を整えているイザードの姿を捉える。
「…イザード殿…」
自分には必要ない。イザードは言外にそう言ったのだ。
必要がないなら捨ててもおかしくない。小綺麗な部屋を見る限り、不要物の処分に躊躇いがある人物には思えなかった。
ならばこの瓶は、この花は、なぜここにある。
「持ってくなら今のうちよ。もうすぐ集合でしょ」
そうだ。呼びに来たはずが長居してしまった。もう一度、後ろ姿を見やる。鏡越しの表情に変化はない。
手に持っていた瓶を、ジェシナはそっと脇机に戻した。コト、という控えめな音とともに、白い花びらがゆらりと揺れた。
#ノベルバー 10日「水中花」−「絶界の魔王城」より
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「紙…なのですか」
色のついた瓶の中には、白い花が咲いている。瓶を傾ければ、中に満ちた水に従ってゆらゆらと花びらが揺れ動く。
紙で出来た「偽物」、とは思えなかった。確かに本物の花ではなかろうが、だからこそ美しい。
「欲しいならあげるわよ」
「いっ…、いえ、そのような!」
「いいのよ別に。欲しい人間の元にある方が物は価値があるわ」
「―――、」
ジェシナの目線が瓶から離れ、背を向けて髪を整えているイザードの姿を捉える。
「…イザード殿…」
自分には必要ない。イザードは言外にそう言ったのだ。
必要がないなら捨ててもおかしくない。小綺麗な部屋を見る限り、不要物の処分に躊躇いがある人物には思えなかった。
ならばこの瓶は、この花は、なぜここにある。
「持ってくなら今のうちよ。もうすぐ集合でしょ」
そうだ。呼びに来たはずが長居してしまった。もう一度、後ろ姿を見やる。鏡越しの表情に変化はない。
手に持っていた瓶を、ジェシナはそっと脇机に戻した。コト、という控えめな音とともに、白い花びらがゆらりと揺れた。
#ノベルバー 10日「水中花」−「絶界の魔王城」より
posted by 神名リュウト(KaL) at 15:11| 突発SS・文章系タグ
#ノベルバー 1・3・6・7日分
Twitterの「ノベルバー」という企画に気まぐれに参加中です。企画の詳細こちら。→ https://twitter.com/Fictionarys?t=RoNAEpi5L_2flJpacEYszQ&s=09
まあ気楽に、と140字で参加していたのですが、どうも納得行かなかったので、やりたい時にやりたい文字数やる方針に切り替えました。
で、この記事にはひとまず過去分をまとめます。続きからどうぞ。
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続きを読む
まあ気楽に、と140字で参加していたのですが、どうも納得行かなかったので、やりたい時にやりたい文字数やる方針に切り替えました。
で、この記事にはひとまず過去分をまとめます。続きからどうぞ。
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posted by 神名リュウト(KaL) at 15:08| 突発SS・文章系タグ
2021年10月29日
21/10/29 お題メーカー「書き出しと終わり」
明日更新します!!
結構前にやったTwitterSSお題「書き出しと終わり」が掘り出されたので貼っておきます。もう1本ぐらいあった気がしたけどどうしたっけかな…。
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KannaLuteさんには「振り返ることはできなかった」で始まり、「なぜか目が離せなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以内でお願いします。
#shindanmaker #書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/801664
振り返ることはできなかった。父母と弟の表情を確認するのが恐ろしかった。騎士団長との契約は、家族も皆知っているはずだ。見送りに出ながらも、三人は自分を手放した事に安堵しているのではないか。馬車が動き出しても、ジェシナは館を振り返らなかった。伏せた瞼から、雫がひとつ零れ落ちた。
ひどくゆっくりとした走馬灯を見ているようだった。幼い頃から、家族には迷惑しかもたらさなかったように思う。城に着いても、地に足がついた気がしなかった。力のない瞳で、荘厳な城門を見上げる。ここをくぐれば、戦いに赴く騎士の顔をしなければならない。深呼吸を、ひとつ。足を踏み出す。
「力入りすぎよ」ぎょっとして辺りを見回す。魔術師だろう、ローブ姿の人物が薄笑いを浮かべていた。「精々頑張りすぎないでちょうだい」言い残し、その人物は歩き去る。ジェシナは無言のまま本城に足を向けたが、留まり―――振り返る。金髪を揺らし遠ざかっていく後ろ姿から、なぜか目が離せなかった。
結構前にやったTwitterSSお題「書き出しと終わり」が掘り出されたので貼っておきます。もう1本ぐらいあった気がしたけどどうしたっけかな…。
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KannaLuteさんには「振り返ることはできなかった」で始まり、「なぜか目が離せなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以内でお願いします。
#shindanmaker #書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/801664
振り返ることはできなかった。父母と弟の表情を確認するのが恐ろしかった。騎士団長との契約は、家族も皆知っているはずだ。見送りに出ながらも、三人は自分を手放した事に安堵しているのではないか。馬車が動き出しても、ジェシナは館を振り返らなかった。伏せた瞼から、雫がひとつ零れ落ちた。
ひどくゆっくりとした走馬灯を見ているようだった。幼い頃から、家族には迷惑しかもたらさなかったように思う。城に着いても、地に足がついた気がしなかった。力のない瞳で、荘厳な城門を見上げる。ここをくぐれば、戦いに赴く騎士の顔をしなければならない。深呼吸を、ひとつ。足を踏み出す。
「力入りすぎよ」ぎょっとして辺りを見回す。魔術師だろう、ローブ姿の人物が薄笑いを浮かべていた。「精々頑張りすぎないでちょうだい」言い残し、その人物は歩き去る。ジェシナは無言のまま本城に足を向けたが、留まり―――振り返る。金髪を揺らし遠ざかっていく後ろ姿から、なぜか目が離せなかった。
posted by 神名リュウト(KaL) at 16:35| 突発SS・文章系タグ
2020年01月13日
20/01/13 #君・私・地獄で文を作ってください
「突発SS」のタグに「文章系タグ」を追加しました。Twitterのタグをやってみた系。
というわけで先日やったのはこれ。
#君・私・地獄で文を作ってください
レイ:私は誓って君を地獄から救い出す/必ずや私は君を地獄に落とす
クリーガ:私は君を残して地獄に行くだろう
ラウミィ:私は君一人を地獄に行かせたくはない
セラ:君の行く地獄、それは私
イザード:私は君に地獄を見せるつもりはない
ジェシナ:私が地獄に落ちても君は迷わないで
プレーテ:私は地獄には落ちないでしょうはっはっは
リェレン:君を地獄に落とすために私は生きている
ビクシュ師匠はちょっと保留。
そしてツッコまれるまで気づかなかったんですが、プレーテに「君」が入ってないという非常に彼らしい事態になっていました(笑)
というわけで先日やったのはこれ。
#君・私・地獄で文を作ってください
レイ:私は誓って君を地獄から救い出す/必ずや私は君を地獄に落とす
クリーガ:私は君を残して地獄に行くだろう
ラウミィ:私は君一人を地獄に行かせたくはない
セラ:君の行く地獄、それは私
イザード:私は君に地獄を見せるつもりはない
ジェシナ:私が地獄に落ちても君は迷わないで
プレーテ:私は地獄には落ちないでしょうはっはっは
リェレン:君を地獄に落とすために私は生きている
ビクシュ師匠はちょっと保留。
そしてツッコまれるまで気づかなかったんですが、プレーテに「君」が入ってないという非常に彼らしい事態になっていました(笑)
posted by 神名リュウト(KaL) at 23:22| 突発SS・文章系タグ