2021年11月12日

#ノベルバー 11日「からりと」・12日「坂道」

昨日今日分のノベルバーです。混ぜやすかったので。

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 雲のない薄い色の空を乾いた風が吹き渡り、すぐ近くに冬がいると告げている。
 湿潤な東国ハンガシアだが、国境を頂くこの山ひとつ越えればがらりと気候が変わる。もっとも、「山ひとつ」というのは何度もこの道を往復した身ゆえにできる表現で、一般的に人はこれを「山脈」と呼ぶ。
「ゆっくり景色でも見られれば良かったんだがなあ」
 一歩一歩、吐く息を噛みしめながら、山道を登る。汗ばむ顔や胸を撫でる風はひんやりと冷たいが控えめで、体からあふれる熱気を奪い去るには至らない。
「すまんな、リェレン殿! 少し休ませてやりたいが」
 肩越しにかけた声が、山々にこだまする。後ろの人物はフードをかぶったまま、言葉少なに応じた。
「慣れている」
「そうか。なら怖いものなしだ」
 この旅の果ての果てには、命を脅(おびや)かすほどの「怖いもの」が待ち構えているはずだ。だが恐れはない。それは楽観でも無謀でもなく、澄み渡った精神で全ての物事に対峙する、という覚悟だ。脅威に立ち向かい、真実を見極めるために。
 見慣れた頂(いただき)が眼前に現れた。もうじき、アバリティア国内に入る。
posted by 神名リュウト(KaL) at 15:48| 突発SS・文章系タグ