2021年11月10日

#ノベルバー 10日「水中花」

「ノベルバー」本日の参加分です。

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「紙…なのですか」
 色のついた瓶の中には、白い花が咲いている。瓶を傾ければ、中に満ちた水に従ってゆらゆらと花びらが揺れ動く。
 紙で出来た「偽物」、とは思えなかった。確かに本物の花ではなかろうが、だからこそ美しい。
「欲しいならあげるわよ」
「いっ…、いえ、そのような!」
「いいのよ別に。欲しい人間の元にある方が物は価値があるわ」
「―――、」
 ジェシナの目線が瓶から離れ、背を向けて髪を整えているイザードの姿を捉える。
「…イザード殿…」
 自分には必要ない。イザードは言外にそう言ったのだ。
 必要がないなら捨ててもおかしくない。小綺麗な部屋を見る限り、不要物の処分に躊躇いがある人物には思えなかった。
 ならばこの瓶は、この花は、なぜここにある。
「持ってくなら今のうちよ。もうすぐ集合でしょ」
 そうだ。呼びに来たはずが長居してしまった。もう一度、後ろ姿を見やる。鏡越しの表情に変化はない。
 手に持っていた瓶を、ジェシナはそっと脇机に戻した。コト、という控えめな音とともに、白い花びらがゆらりと揺れた。

#ノベルバー 10日「水中花」−「絶界の魔王城」より
posted by 神名リュウト(KaL) at 15:11| 突発SS・文章系タグ